琵琶湖の北に山をひとつ隔てて小さな湖があります。
1周約6kmの小さな湖は余呉湖(よごこ)で、湖面が穏やかで景色を鏡のように映し出すことから、別名「鏡湖」とも呼ばれています。
そして琵琶湖と余呉湖を隔てている山が今回ご紹介する賤ヶ岳(しずがたけ)です。
戦国の山と呼ばれる賤ヶ岳。
前半では歴史や歴史スポットについて、後半でアクセスや登山ルートの紹介をしています。歴史にご興味のない方は、目次を開いて読みたい記事へとお進みください。
山の情報|賤ヶ岳(しずがたけ)
賤ヶ岳とは
- 滋賀県長浜市にある標高421mの山
- 琵琶湖と余呉湖を分けてそびえる
- 「賤ヶ岳の戦い」の合戦場
- 山頂は360度パノラマで余呉湖・琵琶湖・伊吹山などが望める
- 観光リフトがある
マップ
【解説】賤ヶ岳の戦い
歴史をしってから山へ行かれた方がより楽しめると思いますので、ここでは「賤ヶ岳の戦い」について解説していきます。登山情報だけ知りたい方は飛ばして読んでくださいね。
戦いの背景
1582(天正10)年6月2日、京都本能寺において織田信長は家臣である明智光秀の謀反によって命を落としました。
羽柴秀吉はすぐに京を目指し山崎の戦いで明智光秀を討ち取り、主君の敵討ちを果たします。一方で柴田勝家は戦中であったためすぐに戻ることができず、この戦いに合流することができませんでした。【山崎の戦い】
信長の死後、織田家筆頭家老であった柴田勝家が、羽柴秀吉・丹羽長秀・池田恒興を清州城へと招集します。織田家の後継者と遺領の配分を決めるためです。【清州会議】
後継者選びでは、織田信孝(信長の三男)を推す柴田勝家と、当時3歳であった三坊師(信長の長男の息子)を推す羽柴秀吉で意見が分かれ対立、しかし秀吉が強引に三坊師(さんぽうし)を擁立しました。丹羽長秀と池田恒興が秀吉に同調したため、とも言われています。
このあと行われた遺領の配分も秀吉が主導で行い、領地の取り分においても優位に立ちます。これにより織田家の筆頭家臣であった勝家と秀吉は立場が逆転し、秀吉の影響力と発言力が増大しました。
こうして織田家は、天下人のようにふるまう羽柴秀吉に従う者、柴田勝家を中心とした秀吉に反発する者とで二分されました。
二名の対立がますます深まり、秀吉は勝家に領地配分した近江の長浜城と、三坊師を手放さなかった信孝城主の岐阜城を攻め落とします。
越前にいた勝家は雪に阻まれ身動きがとれませんでしたが、翌年3月、前田利家・甥の佐久間盛政らを率いて約3万の軍勢で北近江へ布陣。対する秀吉も5万の兵を率いて近江の木ノ本へ布陣しました。
戦いの流れ
両者ともすぐには攻撃を仕掛けず、陣地や砦の構築などを行い膠着状態となりました。
岐阜城を攻められ秀吉に降伏した信孝でしたが、勝家らが北近江に布陣したことを知ると美濃で挙兵します。
これにより3方向から囲まれる形となった秀吉は一部の兵を率いて美濃へと進軍。しかし揖保川の氾濫によって足止めをくらい、大垣城へ入りました。
秀吉軍の一部が美濃へと進軍したことで、勝家はついに佐久間盛政に対し出陣の命令を出しました。
中川清秀が守る大岩山砦を陥落、黒田孝高(黒田官兵衛)を攻撃するもその堅い守りに陥落を諦め、次に岩崎山に布陣していた高山右近を攻撃し撃破します。
賤ヶ岳砦を守っていた桑山重晴は、戦況が劣勢と判断して撤退を開始しました。勝家は「これ以上の深追いは危険」だとして佐久間に撤退を命じましたが、それには従わず敵陣にとどまり続けたといいます。
琵琶湖を船で渡っていて状況を聞きつけた丹羽長秀は参戦を決意し駆けつけました。そこで撤退を始めていた桑山重晴と遭遇し、ともに賤ヶ岳で佐久間の軍勢を攻撃し奪還に成功します。
また、大垣城で情勢の変化を伺っていた秀吉は、砦がつぎつぎに陥落されるのを知って賤ヶ岳へと行軍を開始。52㎞の距離を5時間というありえないスピードで走破しました。【美濃大返し】
秀吉がこちらに来ることをしっていた佐久間でしたが、この速さで来るとは予想できず、秀吉軍に包囲され撤退を開始します。
追撃する秀吉軍、撤退しながらも反撃する佐久間勢、柴田勝家の軍勢らが激闘を繰り広げる最中、佐久間の後方を支援していた前田利家率いる軍勢が、突如として戦線を離脱しました。約3万の兵のうち5,000を率いていたとされ、これにより戦況が一変し秀吉が勝利を勝ち取ることになりました。
前田利家は秀吉とは家族ぐるみの付き合いがあり、柴田勝家とは上司と部下のような関係だったそうで、信長の死後、両者の板挟みでかなり苦しんだと伝えられています。
賤ヶ岳の七本槍
この戦いにおいて秀吉の配下で活躍した七人の若き武将のことで、秀吉より感状と領地が与えられたそうです。
糟谷武則・片桐且元・加藤清正・加藤嘉明・平野長泰・福島正則・脇坂安治
実際は桜井佐吉・石川一光を含む9名でしたが、石川は合戦中に討ち死にし、桜井も負傷が原因でのちに亡くなっており、この2名を除いて「七本槍」と伝えられています。
賤ヶ岳の歴史スポット
秀吉にとっての天下分け目の戦いは、この「賤ヶ岳の戦い」であったと言えるでしょう。合戦の地である余呉湖周辺には数々の歴史スポットが存在しますが、ここでは山を歩いているときに見られるスポットだけをご紹介します。
大岩山にある中山清秀の墓
賤ヶ岳の戦いにおいて、佐久間軍から真っ先に攻撃を受けた中山清秀。
秀吉軍から勝家軍に内通する者がでており、秀吉軍の配置が筒抜けだったそう。大岩山は最前線より少し下がったところにあり、いきなり攻撃をうけるはずのない場所だったといいます。
激戦ののち盛政に討ち取られた清秀の墓が大岩山砦跡にあります。
首洗いの池
中山清秀の遺体は土民たちの手によって谷へと降ろされ、芝で覆い隠し守られたと伝えられています。その時に水の湧き出るこの池で首を洗ったそうですよ。
猿が馬場
秀吉が佐久間盛政を追撃する際に最初に指揮を執っていた場所。戦線が余呉湖西岸に移ったあと賤ヶ岳山頂に陣を移したとされています。
合戦戦没者霊地
賤ヶ岳での死傷者を弔う石仏があちこちに点在していたそうで、合戦四百年を機に山頂近くへと移転され合祀(ごうし)されました。
賤ヶ岳の登山コース
余呉湖の3方が山に囲まれているので、いくつか登山口があります。コースを組み合わせて縦走も可能で、湖畔の道路を歩いて周回したり、3方を囲む山を大周回することもできます。
また、賤ヶ岳から南へと続く稜線は約10km先の山本山まで続いています。
※景色が望めるのは賤ヶ岳付近のみで、尾根沿いを歩くときは樹林帯なので眺望はほぼありません
賤ヶ岳周回コース
余呉駅周辺からの一般的な周回コースです。登山口から尾根沿いを歩き賤ヶ岳に登ったあとは、湖畔に下って湖畔道路を歩いて観光館へと戻ります。
標高 | 421m |
歩行距離 | 約8.3km |
歩行時間 | 約3時間半 |
標高差 | 登り約397m・下り約396m |
レベル | 入門コース |
賤ヶ岳往復コース
賤ヶ岳リフト横にある登山口から往復するコースです。
標高 | 421m |
歩行距離 | 約2.5km |
歩行時間 | 約1時間半 |
標高差 | 登り約295m・下り約295m |
レベル | 入門コース |
観光客でも登れるよう整備された歩きやすいハイキングコースとなっています。登山装備は必要なく、歩きやすい服装であれば子供からお年寄りまで誰でも歩くことができます。
賤ヶ岳縦走コース
上2つのコースを組み合わせて縦走することが可能です。
標高 | 421m |
歩行距離 | 約5.5km |
歩行時間 | 約3時間 |
標高差 | 登り約382m・下り約395m |
レベル | 入門コース |
リフトの最寄り駅は木ノ本駅ですが、距離が約2.7㎞離れており歩くと30分強かかります。また、木ノ本駅からバスに乗り大音停留所で下車した場合、交通量が多く道路を渡ることが困難なので要注意です。
大周回コース
余呉湖を囲む山々を周回するコースです。
標高 | 421m |
歩行距離 | 約10.8km |
歩行時間 | 約5時間 |
標高差 | 登り約669m・下り約669m |
レベル | 初級コース |
歩く距離・時間が倍になると考えていただき、体力に自信のある方はぜひチャレンジしてみてください。
賤ヶ岳リフトについて
例年4月後半~12月上旬までの運行
令和5年は4月22日~11月30日
※大雨・暴風警報が発令された場合は運休(HPにて要確認)
【運行時間】
9:00~17:00
(※11月以降は16:00まで)
下り乗車は16:45が最終
【料金】
大人 片道500円 往復900円
小学生 300円 500円
(幼児無料)
【駐車場】無料駐車場あり(下記参照)
アクセス
車でアクセス
大阪・京都方面から余呉湖を目指す場合、湖西道路(無料)を利用しても結局木ノ本経由でしかルートがありません。また、賤ヶ岳トンネルは往復2車線で道幅が狭く、交通量も多いため難所として知られています。行かれる際は北陸自動車道木ノ本ICからのアクセスがおすすめです。
余呉駅周辺
北陸自動車道木ノ本ICから約4.4㎞(約10分)
無料駐車場マップ
賤ヶ岳リフト
北陸自動車道木ノ本ICから約1.5㎞(3分)
無料駐車場マップ
●第1駐車場 26台収容
〒529-0431 滋賀県長浜市木之本町大音1061
●第2駐車場 40台収容
〒529-0431 滋賀県長浜市木之本町大音1909
公共交通機関でのアクセス(注意点アリ)
大阪・京都方面から電車でアクセスする場合、かなりややこしいのでご注意を。というのも、琵琶湖をはさんで西側を「湖西線」、東側を「琵琶湖線・北陸線」が走っているためです。
電車に乗るときには、その電車がAとBどちらのルートを走るのか、どの駅で切り離しが行われるのかを把握しておきましょう。
「新快速米原・敦賀行き」は京都駅で切り離され、前4両が新快速湖西線経由敦賀行き、後ろ8両が新快速米原行きとなるそうです。また米原駅でも長浜方面へ行く車両の切り離しが行われます。アナウンスをよく聞いて間違えないように注意しましょう。
行きはA、帰りはBを利用すると琵琶湖を1周回ったことになりますね。京都駅から余呉駅までは琵琶湖線・湖西線のどちらから乗っても料金は同じなので、行きと帰りで別の路線を使う人も多いですよ。
賤ヶ岳リフトの最寄り駅は木ノ本駅
リフト(登山口)へは木ノ本駅で下車します。
タクシーで5分
バスで15分(大音バス停下車)
歩くと30分強かかります。
賤ヶ岳の四季
4~5月|一面に広がるシャガの花
リフト下に広がる一面のシャガの花は毎年4~5月に花を咲かせます。あまり他では見ることのできない景色ではないでしょうか。空中散歩しながらぜひ鑑賞を楽しんでください。
4月末~5月末|サワオグルマ
サワオグルマは日当たりのよい湿地に群生するキク科の多年草で、4月末ごろから直径3~4㎝の花を咲かせます。余呉湖では観賞用の遊歩道が設けられていて、黄色い絨毯のように咲き誇るサワオグルマの群生が楽しめます。
上記でおすすめした「周回コース」でサワオグルマの群生が見られます。
6月|あじさい園
余呉湖あじさい園では6月下旬にかけて約1万株の紫陽花が600mに渡って咲き誇ります。
上記でおすすめした周回コースではなく、反対側の湖畔道路を歩きます。「菊石姫と蛇の目玉石」や「天女の衣掛柳(※台風によって倒壊)」を通って余呉駅周辺へと向かいます。
11月|紅葉
11月に入ると紅葉が楽しめます。見頃は11月後半。
冬|雪山
滋賀県最北部に位置する余呉は特別豪雪地帯に指定されています。冬は雪深いことで知られていますが、余呉湖のワカサギ釣り、雪山登山で賤ヶ岳を訪れる人も多いです。
登山道に危険箇所はありませんが、山頂からの下りが急なので、積雪時には滑落に注意との情報もあります。雪山登山に行かれる場合は雪のない時期に一度登っておきましょう。
賤ヶ岳登山の注意点
トイレ・自販機・コンビニ情報
山頂にあるトイレは冬季使用不可です。また水道はありません。
処理能力の低いバイオトイレなので、できるだけ駐車場のトイレを利用するようにとの案内がありました。
山に入ると自販機も売店などもありません。リフトの駐車場、余呉湖観光館、余呉駅に自販機があったので、必要な水分を持って登山を開始しましょう。
余呉駅、余呉湖周辺にコンビニやスーパーはありません。木ノ本駅から登山口に向かって歩く途中に平和堂があります。(朝9時オープン)
朝早くから登山を始める場合は、軽食などをあらかじめ準備しておきましょう。
ヤマビルに注意
リフト横の登山道入り口に「ヤマビルに注意」との看板がありました。ヤマビルは地中で越冬するので、4月~11月ごろまでは注意しましょう。
リフト側の登山道は綺麗に整備されていますが、日陰になる箇所で苔が多く茂っていました。できるだけ苔のないところを歩くようにしましょう。
熊に注意
リフト側にはありませんでしたが、大岩山と岩崎山の間で「熊出没注意」の看板を見かけました。
そのせいか、賤ヶ岳からこちら側では熊鈴をみなさん鳴らしてました。
令和5年7月に余呉町下丹生地域で熊の目撃情報があり、長浜市ではほかにも八島町・西浅井町でも目撃情報がありました。ツキノワグマの行動範囲は大人の雄で約30~100k㎡と言われています。賤ヶ岳での目撃情報は調べても出てきませんでしたが、余呉湖周辺を歩く際には熊鈴を携帯して熊出没に警戒してください。
立ち寄りスポット
北近江リゾート|日帰り入浴
登山の帰りに汗を流すなら、「天然温泉北近江の湯」がおすすめ!フリータイムコースと時間制コースがあります。
フリータイムコース
6:00~翌9:00まで最大27時間の滞在が可能
※但し深夜24:00~翌6:00までフリータイムで滞在の場合は深夜追加料金が+2,000円発生
料金にはレンタルタオル(バスタオル・フェイスタオル)とレンタル館内着、リネンバッグ、ラウンジ利用料(休憩棟)が含まれます。
【料金】大人 平日1,580円 土日祝1,800円
料金をプラスしてレンタルルームを借りられるので、翌朝までゆっくり仮眠をとることも可能です
時間制コース
60分・90分・120分から選べる
【料金】
大人60分 平日700円 土日祝880円
90分 800円 980円
120分 900円 1080円
受付時に時間を教えてくれるので、その時間までにゲートを出ること。時間を過ぎた場合は自動的に更新されるので受付で差額料金を支払います。
ラウンジを利用する場合は別途500円が必要、またタオルなども料金には含まれていません。
【アクセス】
賤ヶ岳リフト駐車場から車で8分
歩くと1時間
木ノ本駅から徒歩38分
高月駅から徒歩30分
木ノ本ICから車で5分
つるやパン 木ノ本本店
つるやパン、ご存知ですか?「マツコの知らない世界」など数多くのメディアに取り上げられたことで全国的に周知されました。コッペパンにマヨネーズとたくわんを挟んだ「サラダパン」は木ノ本周辺に住む方たちのソウルフードだそう。
大阪でも平和堂のパンコーナーで売られていますが、せっかくなら本店に立ち寄って出来立てのサラダパンを食してみたいですね!
登山の帰りに立ち寄ってみてはいかがでしょうか!
529-0425
滋賀県長浜市木之本町木之本1105
TEL 0749-82-3162 FAX 0749-82-5515
アクセス/木ノ本駅より徒歩7分
※お店の駐車場は少し離れたところにあります(20台)
定休日/無休(臨時休業あり)
営業時間/月〜土8:00〜18:00、日・祝9:00〜17:00
冨田酒造
つるやパンの並びにある酒蔵で「七本槍」を製造・販売しています。
七本槍を使用したジェラートやチーズケーキなどの甘味も人気だそう。
お酒好きの方はぜひ立ち寄ってみてください。
まとめ
琵琶湖と余呉湖、近江の街を見渡せる素晴らしい眺望の賤ヶ岳をご紹介しました。登山道は危険箇所がなく歩きやすいので初心者さんにもおすすめです。
ヤマビルや熊などの注意点はありますが、一年を通して楽しめる賤ヶ岳、ぜひ足を運んでみてください。